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常にチャレンジし続け、歩んできた90年の歴史。

湘南エリアで90年の歴史をもつ『井出トマト農園』

美味しいトマトを栽培するのに欠かせない三つの条件は、光・二酸化炭素・おいしい水。
15代目・井出 寿利さんの手によって作られる 90%以上の水分量を含むトマトは、丹沢山系から湧き出る豊かな伏流水から成り立っている。

井出トマト農園は、藤沢の地で江戶時代中期から代々続く農家。昭和初期、食用に改良されたトマトがアメリカから輸入され、真っ先に露地栽培に取り入れた井出さんの曾祖父は、トマト栽培においてパイオニア的存在。割いた竹を地面に刺し、そこに油紙を貼り藁で編んだ”こも”をかけて、中にロウソクを焚く。ビニールハウスのない時代は、そうした手法で霜からトマトを守っていたそうだ。500坪の土地に親子ハウスを自作するなど、大学時代から先代のサポートをしていたという井出さん。家業を継ぐつもりで高校時代から農業を学び、後継は順調かと思われた。
「就職活動をしなかったから、そのまま継ぐつもりだったんですけど、一度先代と大喧嘩して家を出ちゃったんですよ。継ぐか継がないかは分からないけど、一旦離れようと思って。」

『僕はこの井出トマト農園で、やりたいことが色々あったんです。』

厳正なルールに縛られ生産者の顔が見えず、収穫したものがどこに販売されるかも分からないシステムに、歯痒さと堅苦しさを感じていた。何のためにやってるのか分からない、誰にも喜ばれない。そう感じた井出さんが求めたものは、仕事に対する手応えだった。「この状況を打破するには、トマトの直売をすることしかないと思いました。僕はこの井出トマト農園で、やりたいことが色々あったんです。」卸売で全てを農協に任せてしまう委託販売だけではなく、責任持って自分たちの手から販売する。

従来から逸れた道に物事はスムーズに進まず、後ろ指をさされることも多い。しかし、井出さんには依然として気丈な態度でいられる理由があった。「農業で成功したいと思っていた。僕が15歳の時に亡くなった母親の遺言です。農業高校に行って欲しいと母に言われていました。農家を継ぐのは両親の希望でしたけど、僕も同じように思っていましたよ。」
淡々とした口調で、物腰柔らかく話す井出さん。自身の心は常にトマトのことでいっぱいだという。「結構心に火がついてますよ。農業に対しても、トマトに対しても。今の課題は、僕がプロフェッショナルとして積んできた経験を、どうやって”見える化”してみんなに伝え、自立していってもらうか。ある程度までは依存でいいと思います。その仕組み作りがトマトを作るのと同じくらい大変。トマトの命も守らなきゃいけないけど、その人のやる気も育てないといけない。」

良いチームは”終礼”を行う。

社員一人一人のモチベーションは、チームのパフォーマンスを大きく左右する。井出さん流、チームビルディングのコツは、毎日”終礼”をすること。

「朝礼はどちらかと言うと、一方的に指示を受けるだけになっちゃうから。指示を受けて言われたことやって帰って、毎日その繰り返しだと意見を言う場がないんです。そうすると不満が出てくるんですよ。不満を言っているだけでは、何も変わらないから。」
良いマインドで帰宅し、また良いマインドで出勤してもらう。良い成績を上げるチームは、その"終礼"を採用しているそう。井出さんならではの柔軟な発想だ。
「365日稼働してますからね。いいチームがいいトマト作るんだって信じて。 あとはやり方じゃなくて、”在り方”。どう在るべきか、というところで価値観を共有していないといけません。”在る”っていうのはマインドとか、あとは生産や品質の基準とかそういうところも含めて。 やり方をいくら大切にしてもどうしても伝わり辛いことってたくさんありますよね。」

『何事も続けることに意味があると思います。』

農業にはめずらしいIoTシステムを園内に取り入れIT化を図り、常に13品種以上のトマトと、多くの加工品を生産している井出トマト農園は、常に新たなことへのチャレンジを続けている。近年、東京に居を構えることを改めて見つめ直し、都心を離れて農業を始める新しい世代が増え始めているが、そんな次世代の若者たちに井出さんは何を思うのか。「やめないこと。何事も続けないとね、やめちゃうとその瞬間に全てが終わっちゃうから。農業に魅力を感じて興味を持ってくれるっていうのは良いことじゃないですか。とても嬉しいことです。」
井出トマト農園90年という⻑い歴史を背負いながら、井出さんの目は常に遠い未来に向いている。

井出トマト農園
〒252-0826
神奈川県藤沢市宮原2420
TEL: 0466-65-0719
IG: @idetomato_farm

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