INTERVIEW

2020/08/01 sat

2416MARKET THINGSに展開される『いいちみそ 加藤兵太郎商店』に”発酵人”田上 彩がインタビュー

「大切なのは秘伝の技より、基本に忠実に造ること」

嘉永3年から続く味噌醸造の店"加藤兵太郎商店"
現在でも木樽で醸造する昔ながらの製法で味噌を製造しているという。
若き7代目・加藤篤さんを訪ねたのは、発酵食品のエキスパート発酵人の田上彩さん。
終始話題に絶えない取材となった。

田上彩さん:私は元々モデルとアパレルで働いていました。
大量生産っていうものに疑問を感じて、25歳くらいの時にこれって自分が一生やりたい仕事なのかなと思って。
その時ちょうど3.11でいろんな物がなくなったりしたので、アパレルで働きながら畑を始めました。
できた野菜がとても愛しくて発酵にはまり、「へっころ谷」という手打ちほうとうのお店で働いていまは発酵を学びながら味噌とか甘酒とかの虜になっています。
ちょうど海外のスーパーフードが流行りだした頃でした。
でも外に目を向けるより、日本にはこんなに素晴らしくていいものがあるんだからとてももったいないなと思って。
お味噌をおしゃれにポップに取り入れられるような発信の仕方をしていきたいなと思って発酵人という名前で活動させてもらってます。
加藤さんは、7代目ですよね。

加藤篤さん:そうですね

田上彩さん:何歳の時に継がれたのですか?

加藤篤さん:30歳で戻ってきて、いま36歳になって代表交代しました。
それまでは横浜でシステムエンジニアをしていました。
横浜駅を最寄りにしてたので今回の2416Marketの話はとても嬉しくて。
ようやく横浜行けたぞみたいな(笑)
29歳で決心して30歳で動き出したので、実際に継ぐまで一瞬でした。

田上彩さん:じゃあそれまでは継ぎたくなかったんですか?

加藤篤さん:全く継ぐつもりなくて。
元々そんなに自分に自信がなかったので小さい頃から父が会社に対して苦しんでる姿をずっと見ていて、これ俺には無理だなと。
父以上のことができる気が全くしませんでした。
あとは稼いでる会社だけが存在意義があって、古くからやっているから価値があるとは思っていなかったんですよね。
今よりもっと合理主義だった。稼いないなら潰れればいいじゃないかと。
周りからその継いで欲しいみたいなことを言われてたんですけど、俺には関係ないと思ってましたね。

田上彩さん:ご兄弟はいらっしゃるんですか?

加藤篤さん:男は僕一人で、姉と妹がいます。
大人になって責任感が少しずつ出てきたっていうのと、社会人経験ができたのでちょっと自信もついてきた頃でした。
なんとかやれるかもしれないということで29歳の後半でようやく決心しましたね。

田上彩さん:実際に継いでみてどうでした?

加藤篤さん:正直自信を失う部分が結構あって精神的に潰れてしまうかもと思うことがあったんですけど、外で働いてた分、身についてるものもあって、図太くなってるんですよね。
このぐらいを乗り越えてきただろっていうのがあって。
やっぱり8年勤めていたのは良かったですね。
日々の困難乗り越える力になってくれたっていうのをすごく感じました。

田上彩さん:店名にもなっている加藤兵太郎さんとはどなたのことですか?

加藤篤さん:正式に味噌作りを始めた三代目の名前なんですよ。
曖昧なんですけど2代目がすでに味噌作りをしていて、商売したのは3代目で。
会社を大きくしたのは実は次の4代目の連作さんなんですよ。
連作さんが会社名に加藤兵太郎とつけました。
一代目からずっとこの土地です。
元々は麹屋だったんですよ。
近くの麹屋から受けた「いいち」という名前を商品名に使っています。

田上彩さん:手作りにこだわって作っているのですか?

加藤篤さん:これはちょっと難しくて、お金があれば機械化しちゃうところも正直あります。
この6年でやっとわかってきたことなんですけど、機械作りが面白くないって感じる人はものすごく多いと思うんですよ。
僕は最初のうちはもっと合理主義だったので、効率よくできるところはどんどん機械を導入したいって思ったんですけどやっぱり会社の色を残したいと思って、手作りにしています。

田上彩さん:木樽仕込みの職人さんってどんどん減ってるじゃないですか
今木樽仕込みで日本で味噌作りしている所って何件くらいあるんですか

加藤篤さん:多分件数でいったらまあまああるかなとは思うんですけど生産量としては全体の1%くらいですね。
関東だと相当少ないと思います。

田上彩さん:木樽の手入れは職人さんにお願いされてるんですか?

加藤篤さん:全部自分たちで修理してます。
日々の手入れは洗うことなんですけど、でもそれがいちばん大変なんです。
考えられない手間がかかってます。
だからその辺を考えるとやっぱり合理的じゃないんだけれども、でもやっぱり木桶は僕はものすごい価値があると思ってて、絶対かえるつもりがないですね

田上彩さん:あの木桶は何年くらい経っててるんですか?

加藤篤さん:一応計算すると90年くらい

田上彩さん:90年!

加藤篤さん:酒蔵さんがたぶん30年から40年使っててそこから受け継いでいます。
そういう味噌屋がすごく多いみたいです
お酒用に作ると水分をたくさん使うので木が密着するんですよね。だからいいものになってくる酒蔵さんは使えても40年くらいでそういう流れが昔からあるみたいです。

田上彩さん:加藤さんが継がれて、なにか変化はありましたか?

加藤篤さん:継ぐ決心がついて、戻ってきてからまず最初にブランディングに取り組みました。
商品が売り辛いと思って。
売り辛いと思うと味噌の魅力も説明もしにくく感じました。
いい地味さっていうのもあると思うんですけど、うちの地味は売りづらい地味さだったんですよね僕はその地味さが苦手で。これはパッケージを変えないといけないと思いました。
手にとってすぐに魅力を感じて、プラス重要なのは中身と相違がないことが狙いでした。
やっぱり中身の味噌と明らかに違う雰囲気のものを持ってきても違和感が発生するんですよ。
会社の方向性のブランディングっていうのは大学時代の友人に依頼していて今のパッケージに変更するまで一年かかりました。
お互いに方向性が定まってないから、すごいやりあって(笑)
話し合っていくうちにどんどん変わっていくんですよ。
でも僕が考えるブランディングって、その時その時でいいものにしてくっていうのが実はいいかもしれないって考えも出てきてよく時代に合わせて変化していくのがいい会社だって言い方しますよね結局それじゃないかなって思ったんですよ。
その時その時に自分が良いと思ったものに変えていくのがいいかもしれないだからパッケージは結構躊躇無く変えるようにしています。

田上彩さん:パッケージを変えてから、ご自身の気持ちに変化はありましたか?

加藤篤さん:とても販売しやすくなりました。
僕の中でいい発見だったのは、パッケージにこだわると中の味噌にもこだわりたくなるんですよ。

田上彩さん:なるほど!

加藤篤さん:人間もそうじゃないですか。上辺だけの人間って見てくれだけで薄っぺらく見えますよね。
そうならないように、生産過程を見直しました。
その時に気づいたのは、昔からずっと味噌を真面目に作っていたことでした。
パッケージのことに目が行ったから味噌作り方に目が行って、すごくいい作り方をしてることが分かったんです。これはとても感動しました。
うちはめちゃくちゃ真面目だったんですよね。作り方は絶対に変えちゃいけないと思いました。
味に関しては妙に美味しいなってずっと思ってたんです(笑)
だけど美味しいのは馴染みがあるからとか、贔屓目があるなと思ってたんですけど客観性を持ったら美味しいということに気づいたんですよね。
そしたら自信を持って味噌をすすめられるってなって売りやすくなりましたね。

田上彩さん:そこで自信がついてきたんですね。

加藤篤さん:自分が納得できるものになったので急に売りたくなっちゃって(笑)
自信を持って勧めることができるから、お客さんの反応もいいんですよねブランディングしようと思わなかったら、中身の良さにも気がつかなかったかもしれない。

田上彩さん:「基本に忠実に作ること」を掲げられていますが、具体的にどういったことでしょうか?

加藤篤さん:手を抜ける瞬間ってものすごく多いんですよ。
米麹作りの現場も洗いが十分じゃないと蒸しムラができたり失敗するんですよね。
結果的に米麹はできるんですけど品質が低いんですよ。
それを従業員はとにかくきっちりやってくれています。

田上彩さん:基本のベースは6代目の方が?

加藤篤さん:そうですね。父だと思います。
さっき言った通り、変えれるものはどんどん変えちゃうタイプなので僕は考え方を変えようかなって一時思ったこともあったんですけど味噌作りだけは変えなくていいってもう分かっちゃったので。
ずっと昔から続いている店なのでもう全てが出来上がってるんですよね。
僕ら若いのが色々変えたいと思っても変える余地がほぼない状態だということが分かりました。
「基本に忠実に」っていうのはそういう意味もあるんですよね。

田上彩さん:じゃあこれは伝統を引き継ぐっていう意味の基本に忠実っていうことですね。

田上彩さん:お味噌作りの古くからの伝統を現代にどういう風に伝えていきたいと思ってますか?

加藤篤さん:難しい問題ですね。
味噌にあんまり新しい気付きってないような気がしていて。
食べた方がいいよって押し付けるのはなんかちょっと違いますよね。
当たり前のものでい続けるように頑張っていくしかないなって思います。

田上彩さん:最近味噌の消費量は上がってるんですか?

加藤篤さん:上がってないんです。
よく発酵ブームだから味噌は今いいよねって言う方がいらっしゃるんですけど業界的には緩やかな右肩下がりを続けています。
海外だけは伸びてるんですけど、日本食が海外に受けてるだけで味噌業界だけじゃないんですよね。
若い方が取り入れにくいということが理由に挙げられます。
やっぱり若者に伝えていくことを意識しないといけないですね。

田上彩さん:味噌汁を飲んでほっこりする感じとか、日本の伝統だし日本人でよかったて思いますもんね。
わたしが主催している味噌作りのワークショップで、味噌汁を最後に飲むんですけど沁みる!って思います(笑)
この味噌汁が飲みたいから自分でも味噌作りをしてくれる方が結構いっらしゃって。
自分で時間をかけて作った味噌の素晴らしさを私も若い人たちに伝えていきたいなって思ってます。

田上彩さん:加藤さんのおすすめの味噌料理は?

加藤篤さん:僕が好きなのは鳥の味噌漬け焼きです。

田上彩さん:分かります!すごくおいしくなりますよね!
そんなに高くないお肉でも美味しくなる麹の力ってすごいですよね。

加藤篤さん:そうそう!
麹のよさも出てるし、焼いた時のお味噌の香ばしさがすごく美味しい。
保存性まで上がってメリットだらけです。

田上彩さん:一か月くらい味噌漬けにしてた鶏肉がチーズみたいになってとっても美味しくなってました。
置いておいたら腐敗するものでも、つけとくと発酵するじゃないですか。
すごく不思議だしこんなに簡単でこんなに美味しくなるお料理最高ですよね。
結構色んな所にトリップすることが多いんですけど、鰹節の粉を味噌に混ぜたMY味噌を持ち歩いてます。
ホテルとかでも飲んじゃう(笑)

加藤篤さん:僕でもやらないですよ(笑)

田上彩さん:ほっこりするんですよねやっぱり。

加藤篤さん:実際体調整いますからね。
それがいいって感じるのは体の正直な部分だと思います。

田上彩さん:お腹がゆるい時とかすごい効きますよね。
あと飲み過ぎちゃった次の日とか(笑)
日本の食卓においてお味噌の立ち位置ってどういう存在だと思われますか?

加藤篤さん:昔は日本の食卓に味噌があることは当たり前だった思うんですけど、今はそうではないですよね。
家になくても驚かないと言うか。
味噌はそういう存在になったけど、それは駄目だよっていう伝え方は違うと思っています。
やっぱりいろんな国の食べ物が手に入れるようになって、世の中に選択肢がたくさんある。
なにを選ぶかはそれぞれ人それぞれですからね。味噌のない食卓があっても変じゃない。
だけど、日本食の中で絶対的に必要だと思っています。
食卓としては当たり前じゃないけど日本食という括りで言ったら絶対になくてはならない存在だと思います。

田上彩さん:私の祖母が味噌作りをしていました。
30年前くらい前からパッケージングされたお味噌が当たり前になってたと思うんですけどそういうお味噌汁を飲んだ時に、菌がいない!って思っちゃいます(笑)
そこに生命力も感じないし多分身体に効いてる感じもない。
出かける時に祖母が出してくれたお味噌汁の、あのカルチャーをやっぱり自分たちの世代ってもうちょっと取り戻したいですよね。
あえてお味噌の魅力を3つあげるとしたら?

加藤篤さん:すごく合理的なこと言っちゃうかも(笑)
まず保存性がいい。実は味噌って安いんですよね。
食卓に取り入れやすいとかあと健康に良いとか、、
あとは食育に非常に適していると思います。

田上彩さん:私も本当にそう感じます!

加藤篤さん:味噌作り教室開いていると、毎回思います。
思いの外子供は食いつくし、え!これ食べ物なの?って驚いてますね。
こんなに大変な作業をするんだっていう気づきもあるし。
味噌作りの間、親子の会話がとても増えますよね。

田上彩さん:発酵人って名乗ってますけど結構ズボラだし、サーフトリップとか、いろんな場所に行くこともすごく好きなので結構家を空ける時間が長いんです。
だからぬか漬けとか、かまってちゃんタイプの発酵だとほんとダメにしちゃうんですよ(笑)
でも味噌は仕込めば天地返しなくても美味しくなるしこの味噌もいたっけ?っていうくらい奥から取り出してきてもおいしいですよね。
あとマクロビ的に言うとやっぱり薬効成分が三年ですごく上がるって言われているのでお腹を下した時とかは濃いお味噌汁を飲むと治ります。
構わなくていいと言うか、放置してもいい手軽さはすごく好きです。

加藤篤さん:同じ材料を使っても、それぞれの味がちゃんと出るんですよね。

田上彩さん:いろんな菌がいるから美味しくなるんですよね。
その菌はお金で買えないものだからやっぱり代を継ぐってすごいなって思います。
柿の農家さんに伺った時、100年前の木から収穫していると聞きました。
自分たちが植えた木はまだ7年くらいで、利益を生み出してくれないんですよね。
そう考えると、100年前のものを継いでいま利益になるという受け継ぐことの凄さがわかりますよね。
だからやっぱりお味噌とか日本酒とかも日本が持ってる宝だと思うんですよ。
やっぱりそうやって代を継いで守ってるのってすごくかっこいいと思います。

加藤篤さん:そのことを若者に伝えていくってなかなか難しいってことですよね。
その魅力をどうやって伝えていくかですよね。

田上彩さん:材料が大豆と麹と塩だけなのに、そのバランスを変えるだけで味がものすごく変わってくる。
3ヶ月で白味噌ができるし、1年くらい熟成させて赤味噌にもできるし。
そのバランスだけでいろんな物を作れるっていうのも楽しいですよね。

田上彩さん:2416Marketに出店されていかがですか?

加藤篤さん:2416Marketさんがどのように打ち出していくのかっていうところに期待しています。
やっぱり自分が出張販売するのとは効果が違うのかなって思いますね。
神奈川に味噌屋があったんだってよく言われます。

田上彩さん:たしかに!
小田原に木樽仕込みの味噌蔵があると思わなかったです。

加藤篤さん:かなりびっくりされます。
その事実を知らない方が横浜だったら結構いると思うんですよ。
その層に訴えられる驚きを与えられるのが嬉しいのと、しかもそれが若年層だっていうのがたまらなく嬉しいんですよね。
若い人にどう伝えていくかっていうのが常に考えてるので。

田上彩さん:マーケットってそれが楽しいですよね。
コミュニケーションとって自分の大切なことを伝えるっていうのが一番の魅力だと思います。
SNSが復旧してただ「いいね」で流されちゃうものも、ちゃんと面と面を向かい合わせて話すとすごく伝わるなと思います。

いいちみそ醸造元 加藤兵太郎商店

〒250-0001 神奈川県小田原市扇町5-15-6
TEL:0465-34-7188
HP:https://iichimiso.com
IG:https://www.instagram.com/iichimiso/